海の化学1(カルシウム、炭酸塩について)

MACNA2019のLou Ekus氏の講演が非常に役にたったので、ポイントだけ翻訳します。

講演の主なポイントは以下

  1. pHと炭酸塩(CO3)の関係は
  2. Ca、CO3、Mgの関係とは
  3. 塩化カルシウムと重曹だけの添加だとイオンバランスが崩れるか。それを起こらせない方法とは
  4. 炭素源を添加するとリン酸と硝酸塩が下がるのか

1つめの、pHと炭酸塩の関係について。

簡単に言うとpHが下がると水中の炭酸塩濃度も自動に下がる。要するにdKHが下がるってこと。でも、pHがあがったからといって、炭酸塩濃度は自動ではあがらない。海水はpH8.2−8.4になるように作用するようで、もしこれより低いと炭酸塩を使ってpHをあげようとするらしい。だから、pH値を8.2−8.4に維持する必要がある。pH8でこの作用が発生するわけではなく、pH7.5ぐらいになると8.2−8.4に戻す作用が発生するよう。

Lou氏が講演中に使用していた図が下。

次に、カルシウムとdKHの関係。これは反比例の関係。カルシウムが上がれば、dKHが下がる。カルシウムが下がれば、dKHが上がる。これは結構有名な話。では、どういうバランスかというと以下のような関係。

dKHが7辺りだと、カルシウムは450あたり。dKHが11辺りだと、カルシウムは330あたりになるようです。でもこれにマグネシウムが絡むと少し状況が違います。

マグネシムが絡むと関係が下記のように全体的に引き上げられます。Mgレベルが以上に高いとMgとCO3が結合します。炭酸マグネシウム(MgCO3)になった炭酸塩をサンゴは使用することができません。なのに、なんと試薬には反応するのです!こうなってしまっては、dKHを正常値に維持しているつもりでも、実際にはサンゴが使用できる炭酸塩が少ないのです。

更に面白いのは、リン酸塩の濃度によってもMgと同じような効果があるらしいです。なぜ、リン酸塩濃度がカルシウムやdKH濃度に影響あるかというと、それはリン酸塩による石灰化の阻害と関係あるそうです。サンゴの骨格は炭酸カルシウム(CaCO3)ですが、リン酸濃度が高いと、この結晶化のプロセスでリン酸が結合してしまいます。それにより石灰化が阻害されます。すると本来結晶化に使われる炭酸塩やカルシムが余ることによりこれらの値が上がります。

次にdKHとカルシウムを重曹(バッファー剤)と塩化カルシウムで維持する場合、良く理解していないと水槽内のイオンバランスが崩れます。重曹に含まれる炭酸塩(CO3)と塩化カルシウムのカルシウムはサンゴに消費されますが、残ったナトリウム(Na)と塩素(Cl)はお互い結合して塩化ナトリウム(NaCl)になります。これは一般的に言われる塩です。これは水換えでしか水槽内から減らすことはできません。どんどんこれが増えるとどうなるかというと、塩分濃度があがります。これを下げるために水を足します。でも、塩化ナトリウムはそのままなので、塩化ナトリウム以外の成分の比率がどんどん下がる。同じ塩分濃度でも塩化ナトリウムの比率が大きい塩分濃度になる。

サンゴなどの生体に必要な成分は、塩化ナトリウム以外のほうが重要なので非常に困ったことになる。なので、塩化ナトリウム以外の成分も同時に足してあげることが重要。これがBalling Methodなのである。

 

最後が炭素源添加によるリン酸塩と硝酸塩の低下は何故起こるのか。これわかってるようでわかっていませんでした。まず、サンゴは硝酸塩を海水中から自分に取り込むことは得意だそうですが、リン酸塩を取り込むことは苦手だそうです。それに対して、バクテリアなどはその逆だそうです。炭素源を添加することで、このリン酸塩を取り入れるバクテリアを増やします。そして、リン酸塩をいっぱい取り込んだバクテリアはサンゴに食べられます。それにより、サンゴが取り込むのが苦手なリン酸塩をバクテリアから自分に取り込み、どんどん成長することができます。(結晶化の阻害との関係が疑問点)

ただ、リン酸塩を取り込めても肝心な硝酸塩がなければサンゴは成長できません。Lou氏いわく0.1ppmあたりの硝酸塩濃度がないと、ちゃんとリン酸塩を使えないっぽいです。

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“海の化学1(カルシウム、炭酸塩について)” への2件の返信

  1. こんにちは、また面白いですね。
    CaとdKHの関係はCaリアクターだとどうなるんでしょう。リアクターだと両方上がると盲目的に信じてました。それかCa, dKHが少ない状態からのスタートではなくて飽和状態近くからということでしょうか。なら、リアクターてCa, dKHが上がりきらないときは添加するのはCa, dKHでなく、Mgということで良いでしょうか。
    あと、リン酸塩がサンゴに吸収されるというのは意外でした。スキマーに濾し取られるべきバクテリアがN, Pの両方ないと繁殖できないからだと思ってました。またおっしゃられたようにサンゴに吸収されたリンは成長阻害したり、褐虫藻爆殖させて茶石になったりするんでしょうか。そうするとそもそもBPシステムは栄養塩下げる意味では機能するけど結局サンゴに向かなくて、栄養塩の受け入れられる範囲には限界があるってことになるのでしょうか。
    長いコメントすみません。

  2. YOUさん、
    コメントありがとうございます。
    >CaとdKHの関係はCaリアクターだとどうなるんでしょう。
    僕もその点が疑問です。もしかするとこの講演は飽くまで塩化カルシウムと重曹の添加の場合で、カルシムリアクターのようにCaとCO3だけを添加する場合は、事情が違うのかもしれませんね。

    >リアクターてCa, dKHが上がりきらないときは添加するのはCa, dKHでなく、Mgということで良いでしょうか。
    これは駄目だと思います。なぜなら試薬でdKHがあがっていてもサンゴが使用できる形ではないからです。MgCO3に試薬が反応してしまうから、見た目dKHが上がっているように見えるだけです。この状態に陥っているか判断が難しいですね。Mgを1700とか極端にあげた時にこういう状態になるようです。

    >そうするとそもそもBPシステムは栄養塩下げる意味では機能するけど結局サンゴに向かなくて、栄養塩の受け入れられる範囲には限界があるってことになるのでしょうか。
    僕もそれを考えたんですが、実際BPシステムだとサンゴの色がパステルになるので、茶色石になるってことはないんだとおもいます。考えられるのは、バクテリアの栄養価が高まるので少ない褐虫藻でサンゴに十分な栄養を与えることができるため、サンゴはパステルになる。もう一つは、サンゴが食べるバクテリアの量より、スキマーで濾し取られる方が多い。(ビデオでは逆でしたけどね。)

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