ICP-OES検査について パート2

成功例を前回紹介したので、今回は制限や気をつける点を書きたいとおもいます。

1つ目は、ICP-OES検査といっても検出下限がある。1ppbが検出下限のようですが、海水中に含まれる多くの元素がこれよりも10倍以上低い濃度なのです。だから、検査結果に0とあっても本当は0ではないそうです。悪いことに幾つかの検査結果は、ICP-OESで検出できないレベルの濃度をレポートに書いてあること。これは少し悪質な気がしますね。実際測定された値ではないのだから。

2つ目は、多くの重金属類でどのくらいの濃度で生体に問題を与えるのか分かっていないにもかかわらず、許容範囲が示されている。

3つ目は、検査に出す海水をどうやって採取しているか。海水中には、バクテリア、藻類、その他の小さなものが含まれています。これらをフィルターを使用せずそのまま容器にいれて送る人がほとんどだとおもいます。てか、フィルターの仕方もわからないですし、そもそもフィルターの道具もないですから、実際やることは不可能。その場合、輸送時にどうなるかというと、バクテリアや藻類が蒸発して細胞内の元素が検査水に溶け込む、バクテリアや藻類などが検査水の成分を吸収し検査結果の一部項目の値が実際より小さく出る、バクテリアや藻類が検査水の成分を分解したりリリースしたりすることで一部項目の値が実際より大きく出る。本来は、凍らしたり冷やしてOver night便で発送するのがベストだそうですが、そんなことしている人は皆無でしょう。

4つ目は、品質制御です。本来ICP-OES検査機は5回に一回ぐらいの割合で校正が必要だそうです。しかも、操作はトレーニングした人が行うべきで、素人がすると検査結果にも影響がでそうです。この品質制御をちゃんとしていないがために、検査結果が信用できないものになってしまいます。実際とあるICP-OES検査で、同じ時期に検査された検体は水銀濃度がすべて同じ値で報告されていたみたいです。しかも、その水銀濃度は許容範囲の1.8万倍の値。試験している人がまず気づかないのが不思議な感じです。

ICP-OES検査は、成功例をみてもわかるように非常に有効です。ただし、その特徴をちゃんと知り、使用することが重要なポイントとなります。

 

ICP-OES検査について パート1

日本でも流行りのICP-OESの水質検査。もともとはドイツのTriton Labがやりだしたのかな。ドイツらしい化学をもとにした飼育方法の一つですね。下のYoutubeの映像は非常に有名ですね。

本題をICP-OES検査に戻します。Coral誌のVolume 17, Number 3にICP-OESについての記事が載っています。大変興味深い記事なので少し要約したいと思います。

1つ目は成功体験。

Karen Brittain氏といえばマスクドエンジェルフィッシュの養殖を成功させた偉大な方です。この偉大な成功の前には大きな苦労があったようです。その1つですが、稚魚がある一定の期間をすぎると全滅してしまうというものです。何が原因がわからなかったのですが、ICP-OES検査を行ったところ天然海水3倍以上の亜鉛(Zinc)が検出されたようです。どこからこの亜鉛が入り込んだのかわからなかったため、各所の水質をICP-OES検査したようです。結局見つけた原因は、蓋をしていない水を貯めている容器の水だったようです。基準値の約20倍の亜鉛が検出されたようです。この容器の上には錆びた天井ファン常に回っていたそうです。原因を除いたことで、稚魚も今まで全滅していた期間以上に生き延び、養殖に成功したというわけです。

次は、SPSサンゴの不調などをICP-OES検査で原因を特定したけケース。Dan Rigle氏は、ある年センシティブなSPSの調子が悪いことに気付きました。そこでTrirron ICP-OES検査に出した所、銅が3.56ug/L検出されたようです。このぐらいの銅はミドリイシには許容範囲だというのが一般論ですが、彼はそこに疑問をもったようです。Tritonからのアドバイスで何か最近変更していないかと言われたそうです。そこで思い当たったのが、自作サンプです。かれは抗菌されたシリコンを使用してサンプを作成していたのです。そこで大量水換えとサンプのシリコン変更で彼のSPSサンゴは無事に回復したそうです。

次は、海水から100ppbのアルミニウムが検出されたケース。このケースは、セラミックろ材からアルミニウムが溶け出していたそうです。セラミックろ材なんて結構一般的に使用されているとおもうので怖いですね。

最後のJason Langer氏のケースは、人工海水の素が原因だったこと。とある人工海水の素には、カリウム濃度が非常に低かったそうです。人工海水の素として販売しているのだから信頼しがちですが、こういうケースもあるんですね。僕もある人工海水の素で問題があったことあります。そのときは、そのロットが駄目だったようです。ロット毎にばらつきがあるとは怖いことですね。